不動産取引は高額な資産を扱う大きな契約であり、オーナー(売主)や購入検討者(買主)にとって注意すべき点が数多くあります。
近年、実際に起きた不動産会社への行政処分の事例からも分かるように、手続きを誤ったり法律上の義務を怠ったりすると重大なトラブルに発展しかねません。
本レポートでは、その行政処分事例をもとに、不動産取引で発生しうるリスクやトラブルを解説し、一般のオーナーや購入検討者がそれらを回避するための具体的な対策とチェックリストを示します。
1.行政処分事例の概要
1-1.東京都における不動産会社Aの処分
令和7年1月23日、東京都庁は不動産会社「不動産会社A」に対し、宅地建物取引業法違反を理由として30日間の業務停止処分および指示処分を科しました。
1-2.違反内容
- 契約書の不交付(宅地建物取引業法第37条違反)
- レインズ未登録(専任媒介契約の7日以内登録義務違反)
- 申込の不報告(購入申込書提出後の売主報告義務違反)
- 契約書の不備(手付金条項の誤り)
2.不動産取引で特に注意すべきポイント
2-1.契約書の正確性と書面交付
不動産売買契約書や賃貸契約書など、契約書類の内容が正確であることは取引の大前提です。契約内容が口頭の説明と違っていたり不明瞭な点がある場合は、そのまま署名押印せず、納得できるまで確認・修正を依頼してください。
2-2.レインズ登録の義務と物件情報の適切な公開
専任媒介契約を結んだ場合、契約締結日を含め7日以内にレインズに登録することが義務付けられています。登録証明書を確認し、未登録であれば業者へ問い合わせましょう。
3.トラブルを避けるための具体的対策
3-1.オーナー(売主)が取るべき対策
3-1-1.媒介契約書の内容を十分に確認する
媒介契約を結ぶ際には、契約書にどのような条件や義務が書かれているか細部まで確認しましょう。契約種別(一般・専任・専属専任)、契約の有効期間、仲介手数料の額と支払いタイミング、レインズ登録義務や報告頻度などをチェックし、不明点は契約前に業者へ確認してください。
3-1-2.レインズ登録と販売状況をチェックする
専任媒介契約または専属専任媒介契約を結んだ場合、契約後速やかにレインズに登録されたか確認しましょう。登録が遅れる場合は契約違反となるため、業者へ問い合わせを行い、必要に応じて契約解除も視野に入れて対応してください。
3-1-3.重要事項の把握と情報提供
売主は買主へ物件の詳細情報を開示する責任があります。登記簿謄本や設備の仕様書、物件状況報告書を準備し、物件の欠陥があれば事前に仲介業者と相談して適切に対応しましょう。
3-1-4.信頼できる業者選びとセカンドオピニオン
不動産業者の宅建業免許番号や過去の実績を確認し、複数社に査定を依頼するなど慎重に選定しましょう。契約後も対応に不安を感じたら、他の専門家や別の業者に相談することが有効です。
3-2.購入検討者(買主)が取るべき対策
3-2-1.購入希望物件の基礎調査
物件の登記情報や都市計画図を確認し、周辺環境についても平日・夜間・天候の異なる時に現地を訪れてリサーチしましょう。
3-2-2.資金計画と契約条件の明確化
住宅ローンを利用する場合は、事前審査を受け、手付金の額や支払い条件を確認し、無理のない範囲で交渉を行いましょう。
3-2-3.重要事項説明の理解
重要事項説明書を事前に入手し熟読し、不明点は契約前に解消してください。契約解除条件や違約金の条件も確認しましょう。
3-2-4.信頼できる専門家を頼る
契約前に弁護士や建築士に相談し、インスペクションを実施することで物件のリスクを最小限に抑えることができます。
4.まとめと専門家のアドバイス
不動産取引では契約内容の正確な把握、情報の適切な開示・共有、業者の義務履行確認が重要です。特に初めての取引では慎重に進め、納得のいく契約を実現するための準備を怠らないようにしましょう。
5.不動産取引チェックリスト(売主・買主共通)
不動産取引を進める際に必ず確認すべき事項をチェックリスト形式でまとめました。オーナー・購入者の別を問わず共通して重要なポイントです。取引の各段階で以下のリストを参照し、漏れがないか確認してください。
- 業者の信頼性確認: 不動産会社の宅建業免許番号を確認(名刺や店舗に掲示)。行政処分歴や過去の実績についても可能な範囲で情報収集する。複数社の話を聞き比較検討する。
- 媒介契約書のチェック(売主向け): 媒介契約書に記載された契約種別(一般/専任/専属専任)、契約期間、仲介手数料、レインズ登録義務の有無、報告頻度、特約条項などを確認。【契約書控えを受領済】にチェック。
- 重要事項説明書の受領(買主向け): 契約前に重要事項説明書のコピーをもらい、物件概要や取引条件を熟読。【事前に疑問点整理済】にチェック。
- 売買契約書の主要項目確認: 契約書に記載された物件の表示(所在地・面積等)が登記簿どおり正確か。売買代金・手付金額・支払日が合意した内容と一致しているか。引渡し時期や所有権移転時期、ローン特約の有無など重要事項の抜け漏れがないか。【署名前に再確認済】にチェック。
- 手付金の取り扱い確認: 手付金の性質(解約手付か違約手付か)を理解し、解除期限や違約時の扱いを確認。手付金の授受方法(現金振込など)と保全措置の有無を確認。契約書上、手付金に関する条項が実態と合致しているか。不明点は契約前に解消。
- レインズ登録証明書の確認(売主向け): 専任媒介契約・専属専任媒介契約を結んだ場合、契約後に受け取るレインズ登録証明書を確認。登録番号・日付・物件情報が正しいかチェックし、証明書を保存。万一、契約後規定日数を過ぎても登録証明書が発行されない場合は即時に業者へ問い合わせ。
- 取引過程の記録保存: 業者とのやり取り(メールやメッセージ)、受け取った資料(査定書、提案書、広告資料など)、契約関連書類(媒介契約書、重要事項説明書、売買契約書、領収書類)はすべて保存する。トラブル時の証拠になるので電子データも含め整理。
- 当日の再確認: 契約当日または重要事項説明当日、最後にもう一度重要事項説明書・契約書の内容を担当者と共に確認。【不明点なし】となったことを確認してから署名押印する。不明点が残る場合は、その場で解消するまで契約手続きを進めない決断力を持つ。
- 支払い・引渡しの段取り確認: 手付金、中間金、残代金など支払いスケジュールと金額を再確認。住宅ローン実行日や金消契約日(ローン契約日)の予定を把握。残代金決済と同時に行う所有権移転登記や鍵の引渡しの場所・方法を確認。司法書士の立ち会い手配状況もチェック。
- トラブル対応策の把握: 万一、契約履行中に問題が生じた場合の連絡先を確認しておく。売主・買主双方が契約不適合責任や違約時の措置を理解。必要なら早めに専門家(弁護士等)に相談する準備。
上記チェックリストを活用すれば、不動産取引の各段階で何をすべきか見落としなく進められるはずです。特に初めて不動産を売買する方は、チェックリストを印刷して実際の取引時に逐一確認することをお勧めします。
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