1.親子間売買についての基礎知識
親子間売買の基礎知識について解説します。
1-1.親子間売買とは
親子間売買とは、その名の通り、親子間で不動産の売買をすることを言います。
一般的には、親名義の不動産を子どもへ売却することが多いです。
売り手、買い手の関係が親子というだけで、売買契約自体は一般的な不動産売買契約と変わりません。
ただし親子という間柄、下記の内容等で後々トラブルに発展することがあるので、気をつけて欲しいと思います。
・契約内容をなあなあにしてしまう。
・キチンと契約書を取り交わさずに不動産売買をしてしまう。
・市場取引価格からかけ離れた適当な金額で売却してしまう。
1-2.親子間売買でかかるお金
親子間売買でかかるお金について、売り手、買い手それぞれにかかる主なものをまとめました。
1-2-1.売る側にかかるお金
売る側にかかるお金は以下の通りです。
・印紙税:売買契約書の作成時に必要。目安は、取引額1,000万円につき、5,000円程度。
・抵当権抹消費用:住宅ローンが残っている場合。債権者(一般的には金融機関)が自宅に抵当権を設定しているため、売却時には抹消してもらう費用が必要。1件1,000円+手続き費用や司法書士に支払う手数料(1〜3万円程度)など。
・住宅ローン一括返済手数料:住宅ローンが残っている場合。金額は金融機関による。
・譲渡取得税:売却益にかかる税金。親子間売買では諸費用が抑えられる分、売却益が出やすい。売却のために行ったリフォーム費用や修繕費用は、経費として売却益から差し引くことができる。住宅の所有期間が5年以下なら短期譲渡所得となり約39%、5年超なら長期譲渡所得となり約20%。
・各種証明書発行費用:所有権等が移転したことを関係各所に報告、登録する際などに必要。(住民票200〜300円程度、登記事項証明書400〜600円程度)
1-2-2.買う側にかかるお金
・印紙税:売買契約時に必要。目安は、取引額1,000万円につき、5,000円程度。住宅ローンを利用するなら金銭消費貸借契約時に必要。目安は、契約額1,000万円につき、10,000円程度。
・住宅ローン手数料:住宅ローン利用時。金融機関による。
・登記費用:所有権移転登記、抵当権設定登記費用など。金額は、不動産価格や住宅ローン融資額による。
・登録免許税:不動産価格1,000万円につき、20万円。令和5年3月31日までに登記すれば、1,000万円につき15万円。
・不動産取得税:住宅を取得後に支払う。目安は、固定資産税評価額×3〜4%。控除額がある場合あり。
2.親子間売買3つのメリット
親子間売買による3つのメリットは、以下の通りです。
2-1.一般的な不動産売買よりもコストを減らせる
親子間売買では、一般的な不動産売買よりもコストを減らせる可能性があります。
何故ならば、不動産会社を通して売却先を探してもらったり、仲介手数料を支払ったりということが不要だからです。
とはいえ、親子間であっても税金等の取り扱いを明確にするため、さらに将来のトラブルを避けるために、不動産売買契約書はキチンと作成してください。
親子間では問題がなくても、配偶者や兄弟間、親族間とで不仲になるなど、後々大きな問題に発展するケースが後を絶ちません。
契約書は雛形等を参考にしながら自分で作成しても良いですが、専門家に任せた方が安心です。
手数料はかかりますが、将来のトラブルを防いだり、通常の不動産取引に比べて不動産会社に支払うコストが大幅に削減できたりしていることを考えると、決して高くはないと思います。
2-2.贈与税をかけずに家を相続できる
親子間売買は、一般的な不動産売買と同様の取り扱いになるため、贈与税がかかりません。
また、存命中に不動産を渡すことができるので、遺言を作成したり、家の相続を誰がするかで揉めるといったリスクも減らせます。
不動産は分割して相続するのが難しいため、遺言があっても相続トラブルに発展しやすいです。
そうした意味でも、親子間売買は有効に活用できます。
ただし、事前に相続関係者にキチンと同意を得ること、売却額が市場価格と著しく乖離しないようにしないといけません。
不当に安く売却すると「みなし贈与」とされ、贈与税が課せられることがあるからです。
十分に注意してください。
2-3.条件を柔軟にでき、取引もスピーディー&安心してできる
気心知れた親子間の売買であれば、取引条件を柔軟にすることができます。
通常の不動産売買で一般的に必要な契約時の手付金を省略したり、一括で支払うべきところを分割払いにしてもらう、といったことも話し合いの上決めやすいです。
ただし、分割払いの場合は適切な利息を支払わないと、利息分を「みなし贈与」と見なされるので気をつけてください。
引き渡し日、所有権の移転日なども融通を効かせやすいです。
その上、親子間で話し合いができていれば、取引もスピーディーに進められますし、家のこともよく知っているので安心して取引できます。
3.親子間売買3つのデメリット
親子間売買による3つのデメリットは、以下の通りです。
3-1.売却価格を適切に設定しないと「みなし贈与」と見なされる危険性がある
親子間売買でありがちなのが、親が子どもの負担を減らしたいからと、市場価格よりもはるかに安い金額で家を売ることです。
市場価格から著しく乖離した価格で売却すると、税務署はその差額分を贈与したとみなすことがあります。
これを「みなし贈与」と言い、贈与税が発生するので気をつけてください。
なお、「著しく乖離した価格」に明確な定義はなく、過去の判例から判断すると、概ね市場取引価格の80%程度と考えられています。
例えば、市場取引価格3,000万円の物件を、子どもに2,000万円で売却したとします。
2,000万円は市場取引価格の約67%のため、みなし贈与と判断される可能性があります。
結果、市場取引価格との差額1,000万円が贈与税のと対象となるのです。
みなし贈与と判断されないよう、市場取引価格を確認してから売却額を決めてください。
売却額の算定が難しい場合は、不動産会社に入ってもらうのも手だと思います。
手数料はかかりますが、みなし贈与と判断されて贈与税が発生するリスク、適切な契約書作成、登記等各種手続きについての助言などをもらえることを考えると、一考する価値があります。
3-2.不動産売買に使える控除や特例が使えないケースがある
不動産売買時は、条件によって税務上の控除や特例が設けられていますが、親子間売買では使えないケースがあります。
下記がその対象なので、適用できるかは各控除や特例の適用条件と売買条件とを確認してください。
3-2-1.売る側が使えなくなる可能性のある控除や特例
・居住用財産を譲渡した場合に適用される3,000万円の特例控除
・10年超所有した居住用財産を売却した場合に適用される軽減税率特例
3-2-2.買う側が使えなくなる可能性のある控除や特例
・住宅借入金等特例控除(住宅ローン控除)
・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例
なお、親子間売買での住宅ローンについては、そもそも金融機関が取り扱っていなかったり、審査を厳しくする傾向にあります。
親子間で口裏を合わせて、住宅資金以外(別の借り入れの代わり、事業資金など)にお金を流用したりといったことが懸念されるからです。
3-3.親族間トラブルの原因となることがある
親子間売買では、時に親族間のトラブルに発展することがあります。
金額が大きいですし、本来相続する予定だった相続人が不満を抱きやすいからです。
売買を行う親子間での話がまとまっていても、キチンと相続関係者に同意を得ておいて欲しいと思います。
また、近年は高齢の親が認知症となり、うまく話が進まないケースも増えています。
認知症になった方は基本的に意思決定能力がないとみなされるため、契約することができません。
しかし、まだ正式に認知症と診断される前のタイミングだったり、認知症ではないが認知能力が低下してきたタイミングでの契約だったりで、後々トラブルになることがあります。
認知症になってからでも、成年後見制度を利用することで売買は可能です。
しかし、制度利用のための手続きや費用、不動産売買の際の家庭裁判所の許可等が必要になってくるので、簡単ではありません。
今後、こうしたケースは増えてくると思うので、親子間売買はもちろん、親が不動産を所有している場合は、早めに家族で話し合っておいて欲しいと思います。
4.親子間売買の5つのステップ
親子間売買では、次の5つのステップをイメージしておくとスムーズです。
4-1.親子間売買をする前に全ての相続人から同意を得る
まず、後々のトラブルを防ぐために、売却予定の物件に関して相続人になる可能性がある人に同意を得ます。
できれば時間をとって、事前に相談すると良いと思います。
4-2.登記簿謄本の取得、市場取引価格の調査をする
次に、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、売買予定の不動産に関する正確な情報を確認してください。
登記簿謄本で特にチェックすべきポイントは以下の3つです。
・所有者(名義人は認識している通りか、以前の相続時にキチンと名義変更しているか、など)。
・抵当権(ローン返済中で抵当権が設定されている場合は、売買前に完済し、抵当権抹消手続きが必要)。
・差押え等、売買契約がスムーズに進まない要因はないか。
そして、不動産の市場取引価格(時価、相場)を調べます。
同エリアで、近い条件の物件を探すことになりますが、難しい場合は不動産会社に相談することも検討してください。
手数料がかかったとしても、結果的に早く、間違いも少ないと思います。
4-3.売却価格、条件を決めて売買契約書を作成する
4-2.で調べた内容を基に、売買価格、条件を決め、売買契約書を作成します。
条件では下記の内容を決めます。
・決済日(期限)
・引き渡し時期
・不動産に事前に告知されていない不備や瑕疵等があった際の責任
・契約解除事項
・税金
法律に則った売買契約書の雛型を使って作成しても良いですが、余計なトラブルや不安を防ぐには、やはり不動産会社などプロに入ってもらった方が良いと思います。
親子間売買で万が一トラブルとなると、その後の関係に影響が出るためです。
また売買契約書ができたら、不動産の名義変更に必要な書類も揃えておくと、後の手続きがスムーズに進みます。
4-4.契約締結後、決済・登記手続き・引き渡しを行う
売買契約締結後、決済、登記手続き、引き渡しはほぼ同じタイミングで行われます。
売主、買主はもちろん、必要に応じて不動産会社、司法書士、金融機関(住宅ローンが関係する場合)、引っ越し業者などとのスケジュール調整が重要です。
怒涛の数日になると思いますが、一番ワクワクするタイミングでもあります。
法務局での登記手続きが完了すると、晴れて所有権は新しい家主のものとなります。
4-5.必要に応じて確定申告、納税する
登記後は、売買内容や価格に応じて、確定申告や納税の義務が発生します。
登記手続きの前後に案内をもらったり、説明されることもあるかもしれません。
ただ、金額が大きく、手続きが複雑なケースもあるので、不動産会社や最寄りの税務署、税理士等に相談した方が安心だと思います。
担当 馬場
▶関連用語:競売開始決定通知、連帯保証人、連帯債務者、親族間売買、任意売却
私たち、アリネットは住まいのトラブルを減らすため、2000年以降、引っ越しを経験された方、累計6,700人超の方にアンケートを行い、様々な部屋探しの体験談や失敗談を集計し、分析してきました。
同様に、住まいのトラブルに関する最新の裁判判例を弁護士や司法書士と共に理解し、データ化しています。今後もこのようなデータを生かし、トラブルを予防し、より失敗や損失の少ない部屋探しを私たちは提供していきます。
有名私立大学卒業後、部品商社を経て、2011年より西東京、立川や吉祥寺エリアを中心に建物の工事・改修を行う。2013年より、同代表の相樂と共に不動産の売買、管理・賃貸仲介を始め、現在に至る。
2019年は茨城県の戸建てや板橋区の共同住宅などを仲介。同時に、東京渋谷区の民泊や麻布十番のシェアオフィス向けリノベーションやコンバージョン工事を行う。最近は、台風15号や19号に伴う火災保険の申請サポートやその後の改修工事を積極的に行う。
保有資格:宅地建物取引士、FP二級、防犯設備士、住宅ローンアドバイザー
馬場 紘司
株式会社リビングイン 共同代表
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