D.不動産用語

ダブルローンは『複数のローンを組んだ状態』のこと

1.ダブルローンの基礎知識

住まいのトラブルで悩む男性

1-1.ダブルローンとは

ダブルローンとは、複数のローンを組んだ状態のことを言います。『二重ローン』と言われることもあります。

特に、2軒分の住宅ローンを利用している時に使われる言葉です。

1軒目の住宅ローンの返済中に住み替えなければならない事由が発生し、2軒目を住宅ローンを利用するというパターンがよくあります。

単純に2軒分の住宅ローンを支払うことになるので、負担は大きくなります。

また、そもそも審査自体も厳しくなります。

そのため、本当にダブルローンを利用しなければならないのか、利用しても返済が滞りなくできるのか、よく考えて欲しいと思います。

1-2.人生でどんな時にダブルローンになりやすいのか?

ダブルローンを利用するシーンとしては下記のような状況が想定されます。

・住宅ローン返済中だったが、災害等で住めなくなり引っ越した。
・離婚で旧居を元配偶者に財産分与し、自分は新居を購入した。
・セカンドハウス、親や親族が住む家を新たに購入した。

また、住宅ローンだけでなく、他のローンを同時に利用する場合も、広義でダブルローンに含まれます。

・住宅ローンとマイカーローンを利用する。
・住宅ローンと教育ローンを利用する。
・住宅ローンとクレジットカードのキャッシングを利用する。

1-3.ダブルローンと住み替えローンの違い

住み替えで利用するローンとして、ダブルローン以外に『住み替えローン』があります。

ダブルローンと住み替えローンの違いを端的に表すと以下のようになります。

・買い先行:ダブルローンを利用
・売り先行:住み替えローンを利用

1-3-1.買い先行

買い先行とは、新居を先に購入して、旧居から引っ越す不動産取引の手順のことです。

どうしても手に入れたい新居を見つけて早く購入しなければならない、すぐに新居に引っ越さなければならない、などの場合は買い先行になります。

住宅ローン返済中の家は、金融機関により抵当権がついているため、住宅ローンを完済しなければ売却することができません。

ですので、一般的には先に旧居の住宅ローンを売却金で完済してから、新居の購入となります。

しかし、この手順では旧居が売れてからしか新居を購入できないため、すぐに新居の購入が必要な場合には買い先行にせざるを得ません。この時に利用するのがダブルローンです。

1-3-2.売り先行

売り先行とは、旧居を売却してから新居を購入する手順の不動産取引のことを言います。

売却益、または売却金と自己資金で旧居の住宅ローンを完済してから新居を購入します。

旧居の売却金と自己資金で返済しきれない残債が発生した場合に、その残債と新居の購入費用を併せて借り入れられるのが住み替えローンです。

新居分の住宅ローンお併せて旧居の住宅ローンも支払うという点はダブルローンと同じですが、あくまで残債になるのでダブルローンより負債額が小さくなる傾向にあります。

ただし、売り先行の場合は、新居に引っ越すまでの仮住まいの賃貸料や2回分の引っ越し費用が必要になるので、売却と購入のスケジュール調整は綿密に行った方が良いと思います。

2.ダブルローンを利用する3つのメリット

破綻解消で家族と過ごす日常

ダブルローンを利用するメリットは以下の3つです。

2-1.好きなタイミングで新居の購入・引っ越しができる

ダブルローンを利用すれば、旧居の住宅ローンの完済を待たずに新居を購入できるので、好きなタイミングで引っ越し等を進められるメリットがあります。

希少な不動産を見つけた、すぐにでも引っ越したいという時はもちろん、じっくり新居探しをしたいという場合でも焦ることなく、自分のペースで行うことができます。

2-2.仮住まいの費用・負担がない

ダブルローンを利用すれば、旧居から新居にダイレクトに引っ越しできます。そのため、仮住まいの賃貸料や引っ越し費用、手間が発生しません。

わずかな期間の仮住まいであったとしても、賃貸に伴う初期費用(仲介手数料、火災保険料、敷金礼金など)はかかります。

他にも、マンスリータイプ等にすると割高になるので、無駄な出費となります。

2-3.旧居の売却を有利に進めやすい

ダブルローンを利用すれば、ゆっくりと売却を進められるので、焦って売却額を下げる必要がありません。

人気のエリアや物件ならば、交渉を有利に進められる可能性もあると思います。

また、新居に引っ越して、旧居を綺麗にメンテナンスしてから売りに出すことができるので、買い手がつきやすい、高値で売りやすいというメリットもあります。

と言うのも、これまでの経験から生活感のありすぎる家は買い手が倦厭し、値段交渉や時間が掛かるからです。

3.ダブルローンを利用する3つのデメリット

ローン破綻時の面談

ダブルローンを利用するデメリットは以下の3つです。

3-1.返済の負担が増える

単純に2軒分の住宅ローンを返済することになるので、返済負担は増えます。

新居の購入額によってはそれまで支払っていた住宅ローンの2倍以上に膨らむ可能性もあります。

そのため、借り入れ後も生活が続けられるのか冷静に考える必要があると思います。

特に変動金利で住宅ローンを契約していた場合、金利上昇で急激に支払いが厳しくなることも予想されます。

旧居が売れるまでの短期間の話と思っても、旧居がいつ売れるという保証はありません。ここもシビアに計画を立てて欲しいと思います。

3-2.旧居を賃貸に出して賃料収入を得ることが難しい

住宅ローンは基本的に「自分で住む家」でしか利用することができません。

そのため、旧居の住宅ローンが残った状態で、旧居を賃貸に出して賃料収入を得るということはできないのが一般的です。

勝手に賃貸に出すと契約違反で大きな問題になるリスクが高いので注意して欲しいと思います。

どうしても、売却までの返済負担軽減のため、賃貸に出したいということであれば、事前に金融機関に相談し、許可をもらってください。

3-3.旧居の住宅ローン減税が受けられなくなる

住宅ローン減税は自分が住む家に対してしか適用されません。

つまり、新居に引っ越せば、旧居の住宅ローン減税はなくなってしまうため負担が増えます。

その分、新居で住宅ローン減税は受けられますが、適用条件は毎年変わっているため、新居を購入する前によく確認しておく必要があります。

4.ダブルローンの利用条件

ダブルローンは返済負担も大きくなるため、利用条件、審査基準が厳しくなります。

条件は金融機関によって異なりますが、概ね共通する内容をまとめました。

4-1.返済能力がある

返済能力は、年収に対するローン返済額の割合によって判断されます。フラット35を利用する場合、返済額の割合の目安は以下の通りです。

・年収400万円未満:返済比率30%以下
・年収400万円以上:返済比率35%以下

例えば、35歳で年収500万円の人であれば年間の返済額の上限は175万円になります。毎月払いなら、月額14万5,800円程度が上限値です。

フラット35を丸々使い切って35年返済、完済を70歳と設定すると、住宅ローン額の最大値は【175万円×35年=6,125万円】。

ただし【6,125万円】には金利も含まれるので、実際の住宅取得費用として使えるのは金利1%程度だったとしても、5,000万円程度と考えておくのが無難だと思います。

2022年の最新情報では東京都の新築マンション価格は5,000万円越え、東京23区に限れば8,000万円は下らないと言われています。

そのため、1つの住宅購入でさえ、年収500万円では非常に厳しい状況であることがわかります。

つまり、年収500万円でのダブルローンは現実的ではありません。

なお、この返済比率には住宅ローン以外のローンも含まれます。マイカーローンや教育ローン、その他クレジットカードローン、キャッシング等の負債も合算されるのでご注意ください。

4-2.70~80歳までに完済できる

多くの金融機関では完済時の年齢制限があり、70歳、80歳あたりを期限としているところが多いです。また申し込み時の健康状態もチェックされます。

70歳が完済期限の金融機関で、40歳の時にダブルローン総額8,000万円を借り入れるとしたら、どのくらいの年収が必要になるか、4-1.の内容を踏まえて算出してみます。

8,000万円÷30年=267万円(年間の返済総額)
267万円÷35%=763万円(40歳時点で必要な年収)

つまり、必要な年収は40歳時点で最低763万円です。ただし、これは返済比率上限値の35%で算出しているので、生活は楽ではないと思います。個人的にはお勧めしません。

また、40歳あたりから子どもの教育費もピークを迎えるため、年収だけでなく貯蓄も必要です。

4-3.旧居の住宅ローンを組んでいる金融機関から許可を得ること

住宅ローンは自分が住む家1軒を対象に借り入れられるものです。

そのため、ダブルローンで2軒を購入したい場合は、旧居の住宅ローンを組んでいる金融機関から許可を得なければなりません。

さらに、ダブルローンを組んだとしても、旧居の売却額で住宅ローン完済が見込まれることを条件とされることが多いので、利用する際は気をつけて欲しいと思います。

5.ダブルローンを利用する前に理解しておきたいポイント

馬場さん

ダブルローンは誰でも簡単に利用できるものではないので、事前に理解しておくべきポイントについて解説します。

5-1.金利が低いタイミングにする

ダブルローンは当然ながら負担もかなり大きくなるので、少しでも金利が低いタイミングを狙った方がいいです。

とはいえ、プロでも金利の上下を確実に読むのは不可能であり、かつ住宅ローンに関しては日本では長年超低金利時代が続いています。

長い目で見れば今後は金利が下がるよりは上がる確率の方が高いので、もしダブルローンを考えているのであればすぐに動いた方がいいと思います。

もちろん、ダブルローンだけでなく普通の住宅ローンも同様です。

5-2.不動産市場が熱い時に旧居を売却する

ダブルローンが利用できたとしても、返済負担と利息のことを考えれば旧居を少しでも早く、少しでも高値で売るに越したことはありません。

不動産市場が熱い時の方が、売りやすく、交渉もしやすくなるので、できればそのタイミングを狙いたいものです。

とはいえ、それも簡単ではありません。なるべく早く売却経験が豊富でエリアを熟知している不動産会社を見つけ、定期的に連絡を取り合って情報を仕入れておくことが重要です。

5-3.資産や自己資金に余裕がないなら利用しない決断をする

最後に、資産や自己資金に余裕がないならダブルローンを利用しない決断をすることも必要だと思います。

繰り返し述べたように、ダブルローンは返済負担が大きく、よほど資産や収入に余裕がない人でなければ、ちょっと金利が上がったり、給料が減ったり、ライフスタイルが変化したりした時に、返済に耐えられません。

旧居を売却するまでの間だと思っていても、いつ売れるかも、売却額もはっきりしていません。

甘い予測でのダブルローンの利用は本当に危険です。ダブルローンは本当に余裕があって、必要な人だけだ利用するローンであるということは肝に命じておいて欲しいと思います。

担当 馬場

▶関連用語:任意整理条件見直し債務弁済の手続き

私たち、アリネットは住まいのトラブルを減らすため、2000年以降、引っ越しを経験された方、累計6,700人超の方にアンケートを行い、様々な部屋探しの体験談や失敗談を集計し、分析してきました。

同様に、住まいのトラブルに関する最新の裁判判例を弁護士や司法書士と共に理解し、データ化しています。今後もこのようなデータを生かし、トラブルを予防し、より失敗や損失の少ない部屋探しを私たちは提供していきます。

有名私立大学卒業後、部品商社を経て、2011年より西東京、立川や吉祥寺エリアを中心に建物の工事・改修を行う。2013年より、同代表の相樂と共に不動産の売買、管理・賃貸仲介を始め、現在に至る。

2019年は茨城県の戸建てや板橋区の共同住宅などを仲介。同時に、東京渋谷区の民泊や麻布十番のシェアオフィス向けリノベーションやコンバージョン工事を行う。最近は、台風15号や19号に伴う火災保険の申請サポートやその後の改修工事を積極的に行う。

保有資格:宅地建物取引士、FP二級、防犯設備士、住宅ローンアドバイザー

馬場 紘司
株式会社リビングイン 共同代表

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相樂 喜一郎

この記事を書いた人

相樂 喜一郎

事例を基にトラブルの少ない取引を目指し、2011年以降130件以上の不動産取引を経験。現在はこれまでの経験を活かし、地域の金融機関と一緒に相続に伴う実家の再生や売却、住み替えに注力。不動産鑑定士補、宅地建物取引士、相続アドバイザー、住宅診断士。 >>その他詳しい実績はこちら

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