こんにちは、防犯設備士の馬場です。
繁忙期の終わった、4月と10月はトラブルの相談件数が一気に増えます。先日、以下のような下階へ灯油がこぼれてきた際の保険や賠償請求の可否について、相談を受けました。
仕事があり、忙しく、難しいと思いますが、引っ越し後に後悔しないため、部屋探しの経験が少ない方ほど担当者に条件等の確認をきちんとして、契約・引っ越しを進めてください。
念のため、これまでの相談事例を基に、遠方への引っ越しや部屋探しの経験が少ない方向けに、トラブルを未然に防ぐ三つの注意点をこちらにまとめておきました。
1.上階から灯油がこぼれてきた被害への対応に関する相談です。
昨日、アパートの二階から私の住む一階のベランダに灯油が滝の様にこぼれてきて、灯油を全身に被り、しまいには洗濯物全滅、部屋の中に灯油が染み、臭いが充満している被害を受けました。
二階の住人の方は事情があり、損害に対しての支払いは一切できないとの回答がきました。現在も部屋の中は臭く、食事もできません。臭いで体調も悪いです。
ここでお聞きしたいのは、下記の2点です。
1)このような場合は我慢するしかないのでしょうか?
2)灯油を全身に被り精神的な苦痛や今だ取れない部屋の臭いは個人賠償責任保険で対応してもらうことは可能でしょうか?
2.まず、本件では「洗濯物や室内に及んだ被害の損害賠償」を求めていくことになります。
大変な大惨事に遭われたようですね、本当にお気の毒です。質問にあった損害賠償は以下の通り、大きく二つに分かれます。
2-1.債務不履行による損害賠償
契約などによって相手方に対して債務を負っている人が、その債務を履行せず損害を与えた場合、民法第415条に基づき損害賠償の義務を負うことになります。一般的に、これを債務不履行責任といいます。
2-1-1.第415条 とは?
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2-1-2.債務不履行責任に基づき、賠償請求ができる例は?
例えば、備え付け設備の不具合が原因で漏水を起こし、部屋の家具が濡れて使えなくなった場合などで使います。貸主は「人の住居として、最低限安心して生活できる環境を提供する義務」があるため、債務不履行となり、貸主は入居者に対して損害賠償の義務を負うことなります。
これを債務不履行責任と言います。債務不履行があると、債権者は損害賠償請求が可能です。
2-2.不法行為による損害賠償
故意または過失によって、他人の権利や法律上保護される利益を違法に侵害した場合、民法第709条により、その損害を賠償する責任を負います。
これを「不法行為責任」といいます。
2-2-1.第709条とは?
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2-2-2.不法行為責任に基づき、賠償請求ができる例は?
不法行為責任は、契約関係のない当事者の間でも成立するという特徴があります。たとえば、ベランダから物を落として、通行人にけがをさせてしまった場合などで使います。加害者と被害者の間には何の契約関係もありません。
しかし、他人の権利や法律上保護される利益を侵害したとして、運転者が責任を負うことになります。これを不法行為責任といいます。
2-3.上記を踏まえて質問に対する回答をします。
2-3-1.1)このような場合は我慢するしかないのか?に対する回答
トラブルの原因は2階の住民自身であること。そして、2階の住民と相談者様の間に何の契約関係もないことから、2階の住民の不法行為責任が問われることになります。不法行為責任となると、当事者同士での解決が原則となりますが、管理会社も流石にこの状況を無視できないとは思うので、まずは管理会社に相談してみてください。
請求について、加害者は拒んでいるということですが、賃貸住宅に入居するときは必ず火災保険に加入します。火災などで家の家財道具に影響があった際に備えての基本的な補償に加え、偶然の事故で第三者に被害を与えてしまった場合に備え、「借家人賠償責任保険」がセットになっていることが一般的です。「借家人賠償責任保険」に加害者が加入していた場合は、損害賠償を肩代わりしてもらえるはずです。
まずは、その点を管理会社に確認してみてください。もしかすると、事情があり払いたくないということは、保険の契約期限が切れていたり何か後ろめたい事情があるのかもしれません。保険に加入していない、期限が切れている等で支払いができない場合は、弁護士に相談して訴訟提起してください。
2-3-2.2)灯油を全身に被り精神的な苦痛や今だ取れない部屋の臭いは個人賠償責任保険の対応は可能か?に対する回答
精神的苦痛等は形に残らず図りづらいため、損害賠償が認められない可能性が非常に高いです。また、部屋についた臭いに関しても、臭いが相談者様の生活を害しているということが、こちらも形に見えないため損害賠償請求は難しいかもしれません。
しかし、臭いと過失の因果関係が明らかであれば、相談者様から加害者へではなく、オーナーから加害者へ「所有する物件を棄損され、真っ当な賃貸物件ではなくなった」と損害賠償請求する方がわかりやすいかと存じます。
もし、管理会社が対応を渋るようなら、オーナーに直接連絡し、部屋についた灯油の臭いが落ちないこと伝え、上記の請求をオーナーからしてほしい旨伝えるのがよろしいかと存じます。
3.このようなトラブルに遭わないために
今回のケースは同じ建物内に複数の住戸が存在するマンションならではのトラブルと言えます。さらに、生活の基盤である住まいに被害が及ぶのですから被害者の方の心労は如何ばかりかとお察しします。しかし、相手側もいる状況ですので、未然に防げる問題ではありません。
そのため、まず第一に行うべきことは、発生場所と原因の確認と特定です。目視で確認するだけでなく、写真を撮影するなどして、客観的証拠を記録しておくことが必要です。自力での対応は難しいと思いますので、遠慮せず、すぐに管理会社に連絡してください。
また、今回のケースは被害を受けた立場ですが、今後自身が加害者になるケースを考えて、個人賠償責任保険等、自身が加入している保険の再確認を行っておくことも大切です。
念のため、これまでの相談事例を基に、遠方への引っ越しや部屋探しの経験が少ない方向けに、トラブルを未然に防ぐ三つの注意点をこちらにまとめておきました。
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あなたの大切な人生と平穏が守られますように、これからも私たちは引っ越しの失敗談をベースに、賃貸の専門家集団として、地域や建物の情報を中心に提供、検証していきます。
今回もサクッと読み切れるように、私たちなりにポイントを整理して記載しました。最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
※なお、これまで聞かれることが多かった質問に関して、サイト移動を機に、もっと参考になるよう一部内容を修正・追記し、投稿しています。
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