1.特定調停についての基礎知識
返済に困った時に使う特定調停の基礎知識について解説します。
1-1.特定調停とは
特定調停とは、裁判官と調停員が間に入り、債務者(お金を借りている人)と債権者(お金を貸している人。金融機関など)とが話し合って和解を目指す手続きのことを言います。
借金の返済が厳しくなった債務者が、生活の立て直しのために行える債務整理の一つで、弁護士を通さずに、債務者自ら申し立てることができます。
1-1-1.特定調停の手続きとは?
基本的には個人再生、自己破産などと同じように、簡易裁判所に申し立てることで特定調停が始まります。
特定調停では、簡易裁判所は債務者に当該債務に係る取引履歴の開示を要求します。そして、債務者、債権者双方の話を聞き、お互いが納得できるように債務の減額、返済条件の緩和などを働きかける仕組みです。
1-1-2.特定調停が成立する条件とは?
債務者の望ましい方向に特定調停が成立すれば、利息の減額、月々の返済金額の軽減や返済期間の延長等により、その後の生活を立て直しやすくなります。
しかし、特定調停の判断基準が簡易裁判所ごとに異なること、債権者によっては特定調停に否定的な態度を示すこともあり、簡単ではありません。
なお、特定調停が成立する条件は概ね以下の通りです。
・約3年で返済できる程度に借金を減額できること。
・安定した継続的な収入を得られる見込みがあること。
1-2.特定調停に必要な費用、期間、書類
特定調停に必要な費用、期間、書類について解説します。
1-2-1.特定調停に必要な費用
特定調停の費用の目安は、下記の通りです(ケースバイケースのあるので、私たちは相談者の方に個別の件について事前に確認することをお勧めしています)。
・申立手数料(収入印紙代):債権者1社(人)あたり500円
個人の債務者が申し立てる場合、債権者1社(人)あたり500円分の収入印紙が必要です。
・手続費用(郵便切手代):債権者1社(人)あたり430円分
裁判所から発送する書類等の郵便切手代として、1社(人)あたり430円分の郵便切手が必要です。債務額や手続きの内容、進行具合によっては増えるケースもあります。
つまり、特定調停では最低でも1,000円程度の費用が必要ということです。
1-2-2.特定調停に必要な期間
特定調停にかかる期間は、概ね3ヶ月〜6ヶ月です。
特定調停の内容によって長期化することもあるので、注意して欲しいと思います。
1-2-3.特定調停に必要な書類
特定調停に必要な書類は以下の通りです。
債務の内容、債務額等によって異なる可能性もあるので、事前に申し立てる裁判所にご確認ください。
・特定調停申立書:2部(正本、副本)
・権利関係者一覧表:1部
・債権者の資格証明書:1部
・財産状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料:1部
・申立手数料(収入印紙代) :債権者1社(人)あたり500円
・手続費用(郵便切手代):債権者1社(人)あたり430円分
なお、事業主や法人が申し立てる場合は、必要書類や手数料等が増えるため、個別に確認する必要があります。
1-3.特定調停の手続きの流れ
特定調停の手続きの大まかな流れについて解説します。
1-3-1.書類作成【特定調停の手続きの流れ】
まず、特定調停の申し立てに必要な書類の作成を行います。
申立書の書式は簡易裁判所に用意されているので、受け取って記入していってください。簡易裁判所によってはホームページから申立書をダウンロードすることができます。
なお、申し立てを行う簡易裁判所は、相手方(債権者)の所在地を管轄する簡易裁判所です。
相手方(債権者)が別々の所在地に複数ある場合は、基本的にそれぞれの所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければなりません。
ただし、一方の簡易裁判所がまとめて行ってくれることもあるので、事前に相談してみると良いと思います。
申立書には、下記のような記載事項が必要なので、こちらも調べておく必要があります。
・申立人(債務者)の住所、氏名、生年月日、電話番号
・相手方(債権者)の住所、氏名(法人の場合は会社名、代表者名、支店・営業所名)、電話番号
・債務の種類、契約日、債務額、残債額、契約番号
その他「1-2-3.特定調停に必要な書類」に記載の書類も揃えてください。
1-3-2.申し立て【特定調停の手続きの流れ】
書類が全て揃ったら、申立手数料(収入印紙代)と手続費用(郵便切手代)とあわせて簡易裁判所に提出します。
申し立てが受理されると、簡易裁判所から相手方(債権者)に申立書の複製、必要な書類等の通知が届きます。
1-3-3.事情聴取期日の開廷【特定調停の手続きの流れ】
申し立て日からおよそ1ヶ月経った頃、事情聴取期日が開廷し、調停が始まります。
この日に出席するのは申立人(債務者)だけで、借金や現在の収入、生活状況、返済予定などについて聞かれます。
1-3-4.調整期日【特定調停の手続きの流れ】
事情聴取日から半月〜1ヶ月後、調整期日という調停が行われます。
申立人(債務者)、相手方(債権者)双方が出席し、借金の減額、返済方法等について話し合いの場を持ちます。
1-3-5.調停の成立or不成立【特定調停の手続きの流れ】
申立人(債務者)、相手方(債権者)双方が納得、合意すれば調停成立となります。
調停内容にしたがって、申立人(債務者)は返済を行います。
合意できなければ日を改めて調整期日を重ね、それでも合意できなければ交渉決裂、調停不成立となり終了です。
申立人(債務者)は契約通りに債務の返済を続けるか、不可能な場合は逆に相手方(債権者)に債権回収の申し立て等を起こされることになります。
1-4.特定調停、任意整理の違い
特定調停と任意整理との違いについて解説します。
1-4-1.特定調停
債務者自らが申立人となり、裁判官と調停委員に仲介をしてもらう公的な手続き。調停成立後に裁判所が作成する「調停調書」には裁判判決と同等の効力がある。
1-4-2.任意整理
弁護士が債務者の代理人となり、債権者と交渉を行う私的な整理。合意後、「和解書」という書面を作成しその内容にしたがって債務返済等を行うが、裁判判決と同等の効力はない。
なお、自己破産、個人再生も、裁判所を通した公的な手続きとなります。
2.特定調停の申し立てをする5つのメリット
特定調停の申し立てをする5つのデメリットについて解説します。
2-1.費用を安く済ませられる
「1-2-1.特定調停に必要な費用」で解説したように、特定調停では、相手方(債権者)1社(人)あたり500円の申立費用(収入印紙代)と、手続費用(郵便切手代)430円分の合計930円で行うことができます。
あとは、事情聴取期日と調整期日に裁判所に行く交通費くらいです。
安く済ませられる理由は、全ての手続きを自分で行うからです。
弁護士に依頼して行う代表的な債務整理手段として任意整理がありますが、こちらは弁護士費用として最低でも数万円はかかります。
2-2.裁判官と調停委員が仲裁に入るので冷静に交渉を進められる
債務者、債権者当事者同士だけでの交渉は困難を極めます。
特に債務者側は借金があり、滞納をしていたり、減額してもらいたい立場なので、心理的にも思い通りに交渉を進めるのは非常に難しいと思います。
そこで特定調停で、裁判官や調停委員に仲裁に入って客観的に判断してもらい、さらにむやみに言い争ったり、感情的になりすぎるといった可能性が少なくなります。
また、相手方(債権者)が応じない場合は罰金刑が課されるため、交渉の席から逃げられるといった心配もありません。
2-3.特定調停が終わるまで督促が止まる
債務者にとって督促は、非常にストレスのかかるものです。
特定調停の申し立てが受理されると、裁判所が相手方(債権者)に「申立受理通知書」を送ります。
その通知を受け取ると、債権者は債務者に対して督促をすることができません。
成立、不成立にせよ、調停が終了するまでは督促が止まります。
2-4.財産を処分しなくて良い
特定調停の場合、整理する債務を選ぶことができるため、その他の財産を処分しなくて良いです。
この点が自己破産と大きく違います。任意整理や個人再生も同様に、全ての財産を処分する必要はありません。
その他の財産を処分しなくて良いので、例えば住宅ローンを利用して購入した自宅やマイカーローンを利用中の自家用車を所持したまま、特定の債務だけ特定調停で交渉することができます。
ただし、特定調停を行うと事故情報(いわゆる「ブラックリスト」)に登録されるため、調停後のローンやキャッシング等の利用ができなくなります。
完済後5年立たないと事故情報から削除されないため、住宅ローン等を利用予定の場合は気をつけて欲しいと思います。
2-5.借金の内容は問われない
特定調停では借金の内容を問われません。任意整理や個人再生も同様です。
自己破産では、借金の原因がパチンコ、競馬などのギャンブル、風俗といった免責不許可事由に該当すると、自己破産を認められないケースがあります。
また、特定調停利用後も特定の職業につけないといった「資格制限」もなく、「官報」にも掲載されないので、会社や近所にバレるといった可能性も低いです。
3.特定調停の申し立てをする3つのデメリット
特定調停の申し立てをする3つのデメリットについて解説します。
3-1.特定調停の合意内容を守れないと強制執行
特定調停が成立し、合意したにもかかわらず、その内容(債務の返済条件)を守れないと、強制執行となります。
特定調停の合意内容はケースバイケースですが、概ね合意後3年間に渡り、借金総額の約3%の金額を毎月支払うことが基準となっています。
それを守らないと強制執行となり、給与や財産を差し押さえられたり、最終的に競売等にかけられたりします。
そして事故情報(ブラックリスト)として信用情報機関に登録され、最低でも5年間は新たな借入ができません。
十分に注意して欲しいと思います。
3-2.裁判所への出廷は平日のみ。数ヶ月を要する
特定調停での裁判所出頭は平日のみで、相手方(債権者)1社(人)あたり最低でも1回30〜1時間程度かかります。
さらに1度の調停で話がまとまらない場合は、複数回足を運び、そのペースも1ヶ月に1回くらいのため、数ヶ月間調停のためにスケジュール調整が必要です。
仕事や家庭の状況によっては、特定調停を続けることが難しいケースもあると思います。
さらに相手方(債権者)が複数ある場合は、その数分の特定調停が必要なため、もっと大変です。
3-3.特定調停は成立でも不成立でも借金が増える可能性がある
特定調停の場合、調停期間中に借金の支払い義務が免除されるわけではありません。したがって、その間も利息や損害遅延金が雪だるま式に増えていきます。
もし、調停後も返済がきついようならば、個人再生や任意売却を検討してみて下さい。
なお、それぞれのメリット・デメリットについては個別の事情や状況により、異なるため、個別の面談でご説明させて頂いています。
担当 馬場
>>【司法書士監修】任意売却以外のローン整理方法は?任意整理、特定調停、個人民事再生、自己破産?
私たち、アリネットは住まいのトラブルを減らすため、2000年以降、引っ越しを経験された方、累計6,700人超の方にアンケートを行い、様々な部屋探しの体験談や失敗談を集計し、分析してきました。
同様に、住まいのトラブルに関する最新の裁判判例を弁護士や司法書士と共に理解し、データ化しています。今後もこのようなデータを生かし、トラブルを予防し、より失敗や損失の少ない部屋探しを私たちは提供していきます。
有名私立大学卒業後、部品商社を経て、2011年より西東京、立川や吉祥寺エリアを中心に建物の工事・改修を行う。2013年より、同代表の相樂と共に不動産の売買、管理・賃貸仲介を始め、現在に至る。
2019年は茨城県の戸建てや板橋区の共同住宅などを仲介。同時に、東京渋谷区の民泊や麻布十番のシェアオフィス向けリノベーションやコンバージョン工事を行う。最近は、台風15号や19号に伴う火災保険の申請サポートやその後の改修工事を積極的に行う。
保有資格:宅地建物取引士、FP二級、防犯設備士、住宅ローンアドバイザー
馬場 紘司
株式会社リビングイン 共同代表
この記事へのコメントはありません。