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麻布十番・賃貸マンション、㈱リビングインの宅地建物取引士の大和田です。今回も前回同様、不動産絡みのトラブル案件を主に扱っている元弁護士先生と一緒に内見でも分からないトラブルの告知事項について、告知事項の範囲について、深堀していきます。
先日、相談に来られた方で隣地人とのトラブルを聞かされずに引っ越し、嫌がらせを受けている方がいました。入居後に騒音や振動、そして境界トラブル等聞いてなかった、ここでは暮らせないからと引っ越し代金や礼金、仲介手数料を取り返すことが出来るのか?
最近、コロナ渦の影響もあって、物件の内覧時に時短で簡単にできる「オンライン内見」を選ぶ人が増えています。ただ、オンライン内見の場合、現地に行かないので最寄り駅の状況や建物周辺の騒音や室内の水臭さなどに気づきにくく、後々トラブルになる可能性があります。正直、夏の暑い日や真冬の午前中等寒くて、内見は面倒だと思うかもしれません。そんな方に失敗談と口コミを基に内見の意義やメリット・デメリットをこちらにまとめました。
内見の意義をちゃんと理解して頂いた上で、下階の人が非常に神経質なケースなど近隣トラブルなど「実際に現地に行っても気づきにくい問題」への対処も必要です。こうした問題点に気づかず、賃貸借契約を締結してしまった場合、後に大家や不動産会社にクレームを言えないのでしょうか?
法律では大家や不動産会社にトラブルに関する「告知義務」があります。その為、告知義務違反になればクレームを主張でき、仲介手数料や礼金、次の場所への引っ越し代金等を請求できるので、この記事では「告知義務違反」がどういったケースで成立する又はしたのかを確認していきます。特に、引っ越し経験が2回以下又はオンラインのみで部屋を決め、これから賃貸借契約を締結する方、すでに契約を締結してトラブルになって困っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
なお、引っ越し直後に判明した隣人トラブル等に関して、告知義務違反が言え、引っ越し費用や損害賠償の請求などが出来るのかについて、こちらでまとめています。
1.告知義務が発生する一般的な基準
まずは「告知義務」がどういったケースで認められるのか、一般的な基準を把握しましょう。
1-1.告知義務とは
そもそも、告知義務とは不動産の売買や賃貸の際、売主や貸主(大家)、不動産業者が契約の相手方へ「物件の欠陥」を伝えなければならない義務です。不動産業者については「宅地建物取引業法47条」に告知義務に関する規定があります。
欠陥を隠して契約させると、買主や借主が大きな不利益を被ってしまうので、大家や不動産業者(一般的に、仲介業者や客付け業者、駅前の不動産など)は相手方に対し、契約前に必ず物件の抱える問題点を告げなければなりません。
なお、個人的には不動産の知識や部屋探しの経験値が少ない場合に、オンライン重説の最中にそれらの内容に関して、質問をして、疑問を解決するのは非常に難しいと思っています。その為、今後、入居者側も知識や理論武装が必要で不動産会社側もきちんと説明するよう努力をしないと、後悔やトラブルが発生する可能性が高まると思っています。オンラインでその点は説明しましたと言っても本人が理解していない状態では、言った・言わないの議論になり、トラブルになりかねません。
1-2.告知義務が発生する基準
ただ、大家や不動産会社も「物件に関するすべての事項」について、告知義務を負うわけではありません。告知義務が発生するかどうかは、基本的に「問題が契約の意思決定に関わる重大なものか」によって判断されます。この判断は「買主や借主の主観」ではなく、「通常一般人の感覚」を基準に判断されるので、「自分としては重大と思っていても、一般的には些細なこと」であれば、告知義務が認められません。
その為、現地に行けば気づきやすいものであれば、告知する必要性が低いため告知義務が認められにくくなります。ここがオンライン内見で非常にネックになるポイントだと思っています。思ったものと違う、騒音、室内が水臭い、雰囲気が悪い部屋だったなど、オンラインでは全く分かりません。
たとえば、物理的に分かりやすいのは、建物の裏に電車が走っている場合、通常は内見時に、電車の音がうるさいことは容易に予想できます。そのため、電車の騒音についてあえて告知しなくても、義務違反と判定されにくくなります。
また、大家が欠陥を知らない場合、告知が不可能なので基本的に告知義務は認められません。ただし、知らないことに過失があれば、告知義務が認められる可能性もあります。
追記>>告知義務の有無の基準に関して、国土交通省が先日出したガイドラインを弁護士さんと話し合いました。まだ、案の段階で、これから本決まりですが、こちらのページにまとめておきました。
1-3.告知義務違反の具体例
- 以前に物件内で自殺や殺人、放火などの事故、事件が起こった
*時間が経った、人が一度住んで問題なかった等はこちらに詳細をまとめています。 - シロアリが巣くっている
- 物件の周辺や下階が暴力団事務所
- 物件の周辺にゴミ処理場、火葬場、屠殺場などの施設がある
- 騒音や境界などで近隣トラブルが発生している
上記のような事実を隠されたら「告知義務違反」となります。
2.借主の主観によって決まるものではない
入居後、騒音・振動や臭い、迷惑な隣人などのトラブルに気づいたとき「このことを知っていたら申し込まなかった。教えてもらえなかったから、大家や不動産屋に告知義務違反がある」と主張する方がたくさんおられます。このページのコメント欄に書き込まれた内容がまさにそうです。確かに、この考え方は間違いではありません。
ただ「借主が知っていたら申し込まなかった」からといって、当然に告知義務違反になるとは限りません。告知義務違反になるかどうかは既述の通り、「通常一般人の感覚」を基準に判断されるからです。ご本人にとっては重大でも、客観的、一般的には些細な問題であれば、告知義務が認められない可能性があります。
たとえば、通常一般より音に異常に敏感な方が入居後にちょっとした音に反応して「知っていれば契約しなかった」と考えたとしましょう。その方が大家や不動産会社へ告知義務違反による損害賠償請求をしても「一般的には気にならない程度の音」であれば、主張は認められない可能性が高いです。
3.オンライン内見の場合はどうなのか?
これまで見てきたケースを踏まえ、オンライン内見の場合、現地に行けばすぐに気づくはずの共用部分の管理不備や音、臭いにも気づけないケースが多いと考えられます。
まず、オンラインで営業マンが大丈夫です。気にならない程度です。というのは本当にあてにならないと考えて下さい・・・。主観は人によって異なります。たとえば、物件の真横に電車が走っていても、オンラインであれば線路が見えなかったり、音が聞こえなかったりして、気づかないまま契約してしまうかもしれません。では、このようなとき、オンライン内見だから特別に告知義務を認めてもらえるのでしょうか?
もちろん「オンライン内見」という一事を持って、すべての事項について告知義務が認められるわけではありません。ただ「現地を見られない」という事情は告知義務の成否に重大な影響を及ぼすと考えられます。
特に、コロナ禍によって、やむを得ずオンライン内見を選択せざるを得なかった場合などには、通常のケースよりも告知義務が認められ易くなると考えられます。たとえば、現地に行かなければ分からないけれど、大家や不動産会社が明らかに知っている「悪臭」、「騒音」、「問題児」などの欠陥についてあえて告知しなかった場合、告知義務違反が成立すると考えられます。
4.隣人トラブルの告知義務違反
隣人トラブルも現地に行かないと気づきにくいトラブルです。オンライン内見に限らず、実際に内見に行っても「その場で騒ぎ」が起こらない限り、気づかないでしょう。実際に現場に行くことが出来れば、ポストや隣のベランダを除くぐらいはさっとできるかもしれませんが・・・。
では、大家や不動産会社が隣人トラブルについて、告知しなかったため入居後に初めて気づいたら、告知義務違反で損害賠償請求や解除をできるのでしょうか?近隣トラブルの場合、一定以上の重大なものであれば、告知義務違反が認められると考えられます。すなわち、通常一般人の感覚として「このことを知っていれば、入居しなかった」という程度であれば、解除や損害賠償請求が認められやすくなるでしょう。
※無理をしない範囲で内見時に隣人のベランダ状況もしっかり確認しておくと、どんな人が住んで居るのかイメージでき、部屋選びの参考になると思います。以前、契約後にお部屋に行って見たら、ゴミの山と言う方がいました。虫、ニオイ以外に何かトラブルが発生しそうな予感です。
>>トラブル対応時によく使う、内容証明と簡易書留や普通郵便、一番バレにくく、リーズナブルなのはどれ?
4-1.近隣トラブルによる告知義務を認めた裁判例(大阪高裁平成16年12月2日)
不動産売買の事案です。入居後に隣人から暴言を吐かれたり、水をかけられたり、大音量でステレオを鳴らされたりしたため、買主は物件への入居を断念せざるをえなくなりました。裁判所は大家と仲介業者の説明義務違反を認め、買主による損害賠償請求を認めました。
ただ、すべての近隣トラブルの事案でこのように告知義務違反が認められるわけではありません。ケースバイケースの判断となるので自分のケースで認められるかどうか知りたい方は、お近くの弁護士に相談してみて下さい。
他にも、実際にあった裁判事例を基にマンションのトラブル対策や相談先、注意点についてはこちらのページにまとめておきました。
5.告知義務違反があったときにできること
5-1.大家への損害賠償請求、解除
告知義務違反によって迷惑を被った場合、大家へ契約の解除を主張したり損害賠償請求したりできます。具体的には、不動産会社の仲介手数料、入居のために使った費用、転居にかかる敷金、礼金、引っ越し費用などを請求できます。
5-2.不動産仲介会社への損害賠償請求
不動産会社にも告知義務違反が認められるので、損害賠償請求が可能です。仲介手数料の返金を求め、物件に入居するためにかかった費用や転居費用などを請求できます。
ちょっと前に、相談があったトラブルに対して、内容証明と簡易書留の使い方や注意点3つ、こちらのページにまとめておきました。
6.告知義務違反で困ったときの相談先
6-1.消費者センター
大家や不動産会社が物件の問題を告知してくれなかったために、トラブルに巻き込まれたら、まずは全国にある消費者センターへ相談してみて下さい。相談員が「何をしたら良いか」、「どういった主張ができるのか」アドバイスしてくれます。
もちろん、国の機関なので利用料金はかかりません。局番なしで188の番号に電話すると、コールセンターにつながるのでかけてみてください。
6-2.都道府県の宅建協会
各都道府県には「宅建協会」という不動産業者の組織があります。宅建協会では、宅建業者(不動産業者)と依頼者とのトラブルについて、相談に対応しています。
不動産会社に告知義務違反があって、損害賠償請求したいと考えている場合には、一度お住まいの地域の宅建協会へ対応を相談してみましょう。
https://www.zentaku.or.jp/about/free_consultation/
6-3.全国宅地建物取引業保証協会
宅建業者関係の団体として、全国宅地建物取引業保証協会もあります。これは、適正な不動産取引を実現して、宅建業界の健全な発展を目指す組織です。利用者からの苦情を受け付けており、必要に応じて保証協会が利用者へと弁償金を支払います。
保証協会は、あらかじめ宅建業者から保証金を預かっており、そこから支払いをする「保険」のような制度です。不動産会社が損害賠償請求に応じないなら、直ぐにあきらめず、一度相談してください。
https://www.hosyo.or.jp/jigyo/madoguchi.php
6-4.弁護士
弁護士は当事者の代理人となって交渉や裁判を進められる法律の専門家です。不動産会社だけではなく、大家相手のトラブルでも味方になってくれます。弁護士に任せれば、大家や不動産会社へ内容証明郵便で賠償請求してくれたり、ときには訴訟を起こしたりして告知義務違反の責任を追及してくれるでしょう。
ホームページで弁護士を探したり、弁護士会で紹介してもらったり、法テラスの相談を利用したりして、不動産に詳しい弁護士に連絡を取ってみて下さい。
ちょっと前に、相談があったトラブルに対して、内容証明と簡易書留の使い方や注意点3つ、こちらのページにまとめておきました。
7.オンライン他内見でも分からない告知義務違反まとめ
部屋探しの経験が2回以下の少ない方など、入居前に気づかなかったトラブルに後日気づくと大変なストレスとなります。隣人トラブルや騒音・振動の問題は入居中ずっと続きます。多くの方がしょうがないと諦め、次の引っ越しでと考えているようですが、実際は我慢し続ける必要は全くありません。
消費者センターや弁護士などの相談先を一度利用してみてください。よくあるトラブルとして、隣人を含めた騒音トラブルに関する告知義務違反についての解説はこちらをご覧ください。ちょっと前に、相談があったマンションの隣人からの仕返しや嫌がらせに対する対処法を3つこちらのページにまとめておきました。
私たちは、このような失敗をデータにしてまとめ、性別や経験、状況により、陥りやすい失敗やトラブルに事前に対策し、お部屋を紹介しています。遠方引っ越しや部屋探しの経験が少ない場合にはご連絡頂けると、幸いです。隣に怒られないように静かに暮らすのはこの時代、ずっとストレスとなり、体にも良くないと思いますよ。
【元弁護士と考える】シリーズ、告知義務の必要な事故物件を選ばないための賢い対策他
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その他、事故物件に関する記事はこちらです。
>>麻布十番の事故物件を見に行って、その場で原因分析(その1)
>>麻布十番の事故物件を見に行って、その場で原因分析(その2)
今回もサクッと読み切れるように、私たちなりにポイントを整理して記載しました。最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
※なお、これまで聞かれることが多かった質問に関して、サイト移動を機に、もっと参考になるよう一部内容を修正・追記し、投稿しています。
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