麻布十番・賃貸マンション、㈱リビングインの防犯設備士兼不動産鑑定士補の相楽です。
今回も前回同様、不動産絡みのトラブル案件を主に扱っている元弁護士の福谷さんと一緒に、入居後に分かる隣人トラブルの回避方法、告知義務について考えていきます。契約後に不安になって、ソワソワしないための事前確認や注意点を考えます。
告知義務の有無の基準に関して、国土交通省が先日出したガイドラインを弁護士さんと話し合いました。まだ、案の段階で、これから本決まりですが、こちらのページにまとめておきました。
賃貸マンションを借りるとき、実は隣人トラブルが発生しているのに不動産会社や大家からその説明を受けられず、後になってトラブルが発覚するケースがあります。入居してから迷惑行為が続くと、住み続けるのがストレスになりますよね。そんなとき、管理会社やオーナーに契約の解除や損害賠償請求ができるのでしょうか?
前回、【弁護士監修】騒音や悪臭、ナンパなど『隣人トラブル』の対処と引っ越し代はどうなるか?を一緒に考えてくれた不動産関連のトラブルを専門に見ている元弁護士の福谷さんと一緒に、不動産賃貸における隣人トラブルの「告知義務」の範囲について、考えていきます。
1.告知義務とは
告知義務とは、『大家や不動産仲介業者が入居を希望する人に対し、物件の重要な事項について告げなければならない義務』です。たとえば、物件が以下のような問題を抱えていると、告知が必要です。
- 雨漏りなどの物理的な欠陥
- 騒音や悪臭などの環境的な問題
- 以前に自殺者が出たなどの心理的な問題
不動産仲介会社には借主に対する「重要事項説明義務」があり、説明すべき内容は宅建業法35条に明示されています。しかし、そこに書かれているものだけを説明すれば良いわけではありません。35条はあくまで例示なので、それ以外の問題でも重要なことは告知が必要です。
また、不動産会社だけではなく、家主も契約当事者として借主候補に誠実に物件の問題点を告知すべき義務があります。隣人トラブルは宅建業法35条に規定されていませんが、状況によって不動産会社や家主に告知義務が発生する可能性がある事柄です。
2.隣人トラブルで告知すべきケースとは
賃貸住宅で重大な隣人トラブルが発生していると、住人は非常に住みにくくなります。すぐに次の引っ越し先へ転居しなければならない可能性もあり、無駄なコストも発生します。隣人トラブルでも程度が酷い場合には、家主や不動産会社に告知義務が発生すると考えられます。
たとえば、告知すべき隣人トラブルの例として、以下のようなケースが考えられます。単身マンションと家族向け混合マンションに分けていきます。
>>一人暮らし向けのお部屋を探している女性から質問された『隣人トラブルを効果的に避ける方法』についてはこちらのページにまとめておきました。実際にあった内容を基に、参考になるようにまとめているので、これから引っ越しを考えている方の役にやつと思います。
2-1.単身者向けマンションのケース
- 単身女性用マンションに交際相手を連れ込み、半同棲をしている等、ルール違反を繰り返し、隣人とのトラブルを起こしている人がいる
- 反社会的勢力とつながりのある人がいて、度々入居者間で問題になっている
2-2.家族向けの混合マンションのケース
- ペット禁止のマンションで注意しても聞かずにペットを飼っており、鳴き声が異常にうるさく、近隣住民としょっちゅうトラブルを起こしている(単身者向けマンションでも同じことがあります。)
- 何度注意してもゴミをきちんと出さない、近隣住民に食ってかかるなどルール違反を繰り返し、トラブルを起こしている人がいる
- 住居用のマンションなのに勝手に水商売やエステなどの事業用に使ってトラブルを起こしている
告知義務違反があれば、契約の解除や損害賠償請求も可能です。契約を解除するなら、仲介手数料の返還を求められます。さらに、次の住居への引っ越し代や敷金などのお金も払ってもらえる可能性があります。
ただし、些細な近隣トラブルであれば、告知されなくても契約の解除などはできません。たとえば、ファミリーマンションで「子どもが多少うるさいときがある」といった程度では、告知義務違反にもとづく、解除や損害賠償が認められない可能性が高いです。
近隣トラブルで具体的にどこまでの告知義務が認められるかはケースバイケースです。もし、正確に知りたい場合には、お近くの弁護士、特にこの手のトラブルを専門にしている先生に相談してみてください。
>>『マンション内の異臭や悪臭トラブル』に関して、司法書士の西門と話した内容を判例や現実的な解決方法についてこちらのページにまとめておきました。家にいる時間が増え、圧倒的にトラブルが増えています。自分ではどうして良いか分からない場合など、参考にしてみて下さい。
3.近隣トラブルを抱えた物件を契約しないための対処方法
入居してから近隣トラブルに気づくと、引っ越しなどが必要になってリスクが大きくなります。できれば問題を抱えた物件を契約しないため、以下のようなことに気をつけてみて下さい。
3-1.不動産仲介業者から物件の紹介を受けたとき
不動産仲介業者からマンションの紹介を受けたら「近隣トラブルは起こっていませんか?」とはっきり確認してください。出来れば、メール等後で証明しやすい形がおすすめです。更に、面談時や内覧後に「騒音や悪臭、非常識な人がいる物件は避けたいので、きちんと調査して下さい」と明示的に伝えれば、不動産業者も通常よりも注意して対応してくれ、近隣トラブルのある物件を紹介されるリスクが減少します。
例えば、以前、当時住んでいるお部屋が幹線道路(甲州街道)沿いで、サッシの防音が弱く、毎晩遅くまで車の騒音に悩まされ、お引っ越し検討されている方が来た時があります。その際は、キチンと引っ越し理由を教えて頂き、駅から離れてしまいますが、意識して、幹線道路から離れた、住宅街にある静かな低層のマンションをご紹介した経緯があります。
そのため、面談時など、キチンと目的や理由を不動産会社に告げ、お部屋を紹介してもらうことは大切なお金と時間、体力を無駄にしないために非常に大切です。
3-2.現地内覧の際の対応
問題のある物件をつかまされないためには、不動産仲介業者を頼るだけではなく自分の目でもしっかり確認すべきです。そのため、現地を内覧するとき、怪しい点がないかチェックするようにしてください。
3-2-1.マンションの壁の厚さなどを確認
壁が薄いと音が伝わりやすいので、入居後にストレスになる可能性があります。その他車通りの多い道に面したマンションなどは音だけでなく、振動もひどい可能性があります。ともに、入居後のストレスになる可能性が高く、内覧時に注意が必要です。
3-2-2.周囲にどのような人が住んでいるかを確認
集合ポストや表札、ベランダ、共用部分などの様子をみたり、住人とすれ違ったときにどんな人か観察してみたりして下さい。
3-2-3.どんな車が停まっているか確認する
偏見といえばそうなってしまうかもしれませんが、車高を極限まで下げている車やフルスモークやナンバーを折り曲げている車には注意が必要です。車が好きというだけの方もいらっしゃるとは思いますが、確認するに越したことはありません。
3-2-4.物件全体の雰囲気を確認
物件の立地や築年数、外観などを含めて良い雰囲気かどうかを確認します。内見時にポストや駐輪場、ゴミ置き場を内覧時に確認してみると分かりやすいです。入居しているにも関わらずポストにチラシが溜まりっぱなしになっていたり、駐輪場では自転車が綺麗に並べて駐車してあるかどうか、ゴミ置き場には未回収のゴミが残っていたり、虫などが湧いたりしていないかを確認しておくと、入居者の情報を少しでも知ることができます。
3-2-5.気になることがあれば、不動産会社の担当者に遠慮なく聞いてみる
音や臭いなど、気になることがあれば不動産会社に遠慮なく事情を尋ねてください。ダメなら諦める勇気も必要です。
3-2-6.案内してくれた不動産仲介業者に、「隣にはどんな人が住んでいるか」「今までトラブルが起こったことはないか」と聞いてみる。
隣に住んでいる人は学生なのか社会人なのか、男性か女性か、家族か単身者か、どういった仕事をしている人かなど、できる範囲の情報を集めてみることが大切です。※個人情報の兼ね合いで詳細をお伝えすることはできませんと言われる可能性が高いですが、「以前、トラブルがあったので簡単でもいいので性別や人数だけでも教えてくれませんか?」と尋ねると教えてくれる確率は少し上がります。
3-2-7.インターネットで建物名や住所名を確認する
ネットで検索すると、物件ごとに以前の入居者や現入居者の生の声を見ることができる「マンションノート」というサイトがあります。
ここでは物件に住む前に分かっていればよかったという情報をまとめてありますので、一度検討している物件名で検索してみると、少しでもトラブルに遭う可能性は低くなるかもしれません。
3-2-8.建物付近にタバコの吸い殻が無いか確認する
エントランス前などの共用部分では喫煙を禁止されていることが多いのですが、ルールを守っていない入居者がいると平気でポイ捨てをする方もいます。もちろんゴミがある=入居者と限りませんが一つの参考情報にはなるためオススメです。
3-2-9.掲示板や共用部を確認
「注意書き」の張り紙をされている掲示物を見かけたら、実際にその行為をやっている人が現在も住んでいるか過去に住んでいた可能性が高いという証明になります。私も色々と物件を見て回りますが、2つ驚いたものがありました。
「エレベーター内は共用部分です。おしっこはしないでください。」というものと、「エレベーター内はみんなの持ち物です。カッターなどの刃物で傷を付けないでください。見つけ次第警察に通報します。」というものでした。どちらもひどい内容で思わずお客様と一緒に笑ってしまいました。
3-2-10.部屋の内見を昼と夜の2回に分ける
これは非常に有効な作戦で、夜に内見に行くと、昼間は仕事で外出していた隣人が帰ってきている可能性が高いので、予め入居者の把握をすることができます。不動産屋さんが時間外で対応できない場合は、外観や周辺状況だけでも確認してみてください。きっと昼間には分からなかった情報が入ってくると思います。これらを確認してみるとある程度状況が分かることもあります。良く確かめてください。
入居する際の厳しい入居審査は面倒だと思われるかもしれません。しかし、逆にいうと、同じマンション住人もその厳しい条件をクリアした人ということです。実際に、私たちの管理物件では、入居時だけでなく、日常清掃や駐輪場の管理等を定期的に行っているため、入居後のトラブルが非常に少ないと思っております。入居者様の満足度も高いので、入居審査は一定の効果がある大切なことだと認識しております。
念のため、追記しておきます。最近増えているオンライン内見時の告知義務違反の判断基準等について、こちらにまとめました。ただ、オンラインであっても、実際に現地に行く場合であっても室内だけでなく、最寄り駅を含め、建物全体を確認することは大切です。
>>現地の内見時にゴミ処理が甘そうなマンションやペットが明らかにいる場合にはトラブルが発生している可能性があります。『マンション内のゴミのトラブル』に関してはこちらのページに現実的な対応方法や判例をまとめておきました。
3-3.契約書作成の際の対応
不動産賃貸契約書は、通常不動産会社が作成したものに署名押印するだけなので、賃借人の希望が大きく反映されるものではありません。ただ、調印前の重要事項説明の際にあらためて近隣トラブルが起こっていないかどうか確認しておくと、トラブルを防ぎやすくなります。
契約書作成時にも、大家や不動産業者から「トラブルは起こっていない」と確答してもらってから署名押印するようにしてください。可能であれば「近隣トラブルが発生していない」ことを重要事項説明書や契約書の特記事項に盛り込んでもらえると何かあった時にも安心です。日常生活をしつつ、賃貸借契約で近隣トラブルに巻き込まれると、非常にストレスが大きくなり、せっかくのお引っ越しによる成長も止まってしまいます。事前の対処により、賢く不利益を防止していきたいですね。ぜひ、今後の物件探しや契約をするときの参考にしてみてください。
4.トラブルを避けるための部屋探しチェックリスト
これまでのトラブル相談やアンケートの事例を参考に、簡単なチェックリストを作りました。
もし、いくつか、該当するようなら、慎重にお部屋探しをされることをお勧めします。
□ 延線沿い等エリアを広げ、自分に合う部屋を探したい
□ 自分に合ったお部屋の条件や優先順位が分からない
□ オンライン内見や広告を見て、お部屋を決めたい
□ 部屋探しの経験が2回以下で相談し、お部屋を決めたい
□ 家賃や初期費用等予算の決め方が分からない
□ 契約や引っ越し後のトラブルは絶対に避けたい
□ 自分のペ-スでゆっくりお部屋を探したい
□ 仲介手数料無料や返金保証が付いている方がいい
もし、3つ以上当てはまる方は慎重に部屋探しを進めて下さい。というのも、トラブルが続くと、仕事や私生活だけでなく、健康も害してしまう事もあります。
また、気になるようなら、LINEで出来る部屋探しの条件簡易診断もやってみて下さい。3つの質問で、部屋探しに必要な具体的な注意点や対策をご提案しています。
隣人を含めた騒音トラブルに関する告知義務違反についての解説はこちらをご覧ください。また、『マンション内でのタバコに関するトラブル』を司法書士の西門と一緒にまとめました。2020年以降急速に増えた問題なので、一人で悩んでいる場合には読んでみて下さい。
なお、4,000件を超える引っ越しの失敗事例の中には、事故物件の取り扱いなど、あいまいなまま契約してしまう不動産会社の話がいくつもあります。そのため、私たちは貸す側も借りる側も事故物件に関するキチンとした知識を持たないまま契約してしまい、あなたが後悔することがないよう、正しい知識を持った不動産会社でマンションなどの契約を行うことを強くお勧めしています。
【元弁護士と考える】シリーズ、告知義務の必要な事故物件を選ばないための賢い対策他
>>【元弁護士と考える】事故物件を契約する前の告知義務?その確認方法や注意点は?
>>【元弁護士と考える】賃貸契約後に『事故物件』と判明、解約や損害賠償できます?
>>【元弁護士と考える】不動産屋からウソを教えられた時の対応は?
>>【元弁護士と考える】騒音、地震、虫などないと言われたのに、嘘だったら
>>【元弁護士と考える】仲介手数料の支払い無効裁判(2019年夏)
>>【元弁護士と考える】賃貸マンションで「騒音トラブル」の告知義務はどこまで認められる?
その他、事故物件に関する記事はこちらです。
>>麻布十番の事故物件を見に行って、その場で原因分析(その1)
>>麻布十番の事故物件を見に行って、その場で原因分析(その2)
今回もサクッと読み切れるように、私たちなりにポイントを整理して記載しました。最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
※なお、これまで聞かれることが多かった質問に関して、サイト移動を機に、もっと参考になるよう一部内容を修正・追記し、投稿しています。
すみません、ご相談なんですが、昨日契約を交わし、部屋の鍵をもらい、本日、掃除をしに行きました。
マンションの隣人のベランダを見ると、ペットボトルが何本か転がっていたので、ベランダを覗き込むとゴミの山でした。
そのまま、今日契約解除したのですが、火災保険の日割分と保証料のみしか戻らないのですか?
管理会社に電話したら、再三注意してるんですけどね、の返答。
把握してたら仲介業者にも知らせ、それでもいいですかと伝えておくべきだと思いますが。
告知義務違反ではないのですか?
北山さん、
コメント、ありがとうございます。
今日、明日中に弁護士さんにきちんと確認し、回答・対応を報告します。
少々お待ちください。
北山様、
お世話になっております。相樂とのLINEのやり取りなど確認しました。
以下、ご確認下さい。
1.告知義務が違反かどうかについて
告知義務が発生するかの判断基準が借主の主観ではなく、通常一般人の感覚です。
その為、今回のような場合、オンライン内見ではなく、実際に現地に行っていることもあり、
残念ですが、告知義務が認められる可能性は少ないと思います。
2.返金請求の可否について
契約書の細かい文言は確認できませんでしたが、精算書は確認できました。
その内、以下の内容に関しては返金を請求できるのはないかと思います。
・火災保険の日割分
・賃貸保証加入料(ただし、一旦スタートしていると返金されないこともあります。ただ、今回の場合、大抵書類がまだ郵送されていないと思います。)
・日割の前家賃
・エアコンクリーニング代
※礼金と仲介手数料に関して、既述の告知義務違反は問えませんが、再度返金してほしい旨を話すことで
レピュテーションリスクから返してもらえる可能性もあります。再度交渉してみて下さい。
※鍵交換代も本来テナントが行うものなのかを踏まえ、請求できる可能性があります。
同じように、念のため、交渉してみて下さい。
以上です。何かの参考になれば、幸いです。