目次
こんにちは、不動産で明るい毎日を目指す六本木の不動産屋、(株)リビングインで建物の管理や住まいのトラブル解消を担当している不動産鑑定士補兼管理業務主任者の相樂です。今回は司法書士の西門と共にマンションのタバコ問題について、これまでの経験と判例を基に対策を考えました。
喫煙率は20%未満と有意に低下していますが(厚生労働省調査より)、タバコのマナーを巡るトラブルはまだまだ多く連絡が来ます。今回は去年の夏にあった相談を基に、マンションのタバコ問題に関して、相談先や対策を書いていきます。
2020年からは感染症対策としての在宅勤務が増え、その影響やストレスで「ホタル族」や「タバコのポイ捨て」を巡るマンション内トラブルやもめ事が増えています。
「マンション内で起きるタバコ問題」の対処のヒントは、賃貸、分譲を問わず、居住環境を快適に保ち、家族の健康を守る上で、必ず知っておきたいことだと思います。今は特に問題のない住宅でも、隣人の喫煙スタイルが変わり、景観悪化や健康被害などが生じるかもしれません。
1.マンションで起きるタバコ問題の具体例
タバコを巡るトラブルは、大別して「受動喫煙に関するもの」と「喫煙後の後始末に関するもの」の2種類があります。ここではまず、マンション生活でのタバコ問題の具体例を挙げます。
1ー1.専有部分にタバコの臭いや煙が入ってくる問題
タバコを巡るトラブルの1つは、居心地のいい空間であるはずの専有部分に臭いや煙が入ってくる問題です。具体的には、以下のような例が挙げられます。
・バルコニー喫煙が原因のトラブル
…窓を開けると室内に臭いや煙が侵入する、洗濯物に臭いが付く等
・換気ダクトの設置位置が原因のトラブル
…ダクトがバルコニー側に設置されており、換気扇の下で喫煙している住人の部屋から臭いや煙が侵入する
1ー2.吸い殻や灰が放置される問題
もう1つのトラブルの形態は、喫煙後の後片付けや喫煙スタイルそのものを巡る問題です。喫煙そのものをあまり問題視しない人でも、下記のような状況は見過ごせません。当の住人には十分配慮してほしいものです。質が悪いのは通りすがりや近隣住人から吸い殻が投げられることです。
・タバコのポイ捨て
…バルコニー、廊下、駐車場などに吸い殻が落ちている
・集団喫煙
…正面玄関前等でマンション住人とその関係者が集まって喫煙しており、通行の妨げになる
2.マンション内のタバコ問題を放置するとどうなる?
「喫煙は個人の自由」との見方があり、集合住宅での喫煙に強い制限がないのはこの後説明する通りです。だからといって「害がある」と認識しているタバコ問題を放置しておくと、下記のように深刻な被害へ発展する恐れがあります。
2ー1.受動喫煙による健康被害
マンション生活で起きるタバコ問題の弊害として第一に挙げられるのは、受動喫煙の問題です。隣の部屋やベランダから来る煙です。
日本禁煙学会の新しい診断基準によると、軽い受動喫煙症(レベル3相当)でも、倦怠感や頭痛、粘膜の症状、うつ症状などがあるとされています。より深刻化すると、アレルギーやがん、認知機能の低下などを招きます。
また、タバコの煙を直接吸っているわけではない場合でも、洗濯物等についた化学物質が再放散される「三次喫煙」も起こるとされています(厚労省の健康情報サイトより)。
2ー2.景観の悪化
さらに、タバコ問題は「資産価値の低下」という目に見える被害をもたらすこともあります。分譲マンションを売却する際は、購入者への情報提供のため現地調査が実施されます。
調査時に仲介業者の担当者が「強いタバコ臭」や「吸い殻放置による景観悪化」を認識すると、物件の環境的瑕疵(環境上のネガティブ要素)として扱われ、事故物件化してしまうのです。こうなると売却手続きは難航し、買い控えや値下げを検討せざるを得ません。
以上の点から、問題のマンションを売却して住み替えしようとする場合でも、まずはある程度までタバコのトラブルを解決して損失を避ける必要があります。
3.マンション生活での喫煙制限
隣人トラブルを解決しようとする際は、改善を求める根拠が必要です。マンション生活でのタバコ問題に関しては、禁煙や受動喫煙対策を求める根拠として「受動喫煙防止法」(改正健康増進法)や個別の管理規約が考えられます。
3ー1.受動喫煙防止法による制限
結論として、受動喫煙防止法を根拠に改善を求めることは困難です。そもそも、上記の法令で喫煙が制限されるのは「学校や病院などの施設」「交通機関」「飲食店」など公共性の高い施設に限られます。対象外の施設での喫煙については、望まない受動喫煙を生じさせないよう周囲に配慮する義務しか課されていません。
3ー2.管理規約による制限
法律ではマンション住人の喫煙を制限できないとなると、残るはマンションの使用細則(管理規約上で定められた使用ルール)や賃貸借契約で定められる使用規則です。
一般的に、エレベーターや廊下などの共有部分に関しては「火気厳禁」などのルールを設けて禁煙化されています。一方で、室内(専有部分)やバルコニー(専用使用権付きの共有部分)に関しては、個人としての権利に配慮し、火気・喫煙などの制限を一切設けないのが通例です。
近年では、使用細則を改定してバルコニー喫煙を禁止する動きが見られます。とはいえ「居住の用に供する場所」について喫煙対策をする義務は管理者にも課されていないため(改正健康増進法第40条1項)、喫煙に関してどんな規定を設けるかは管理組合や家主の問題意識によります。
>>引っ越し後に分かった「隣人トラブル」の告知義務違反、不動産会社やオーナーに再度の引っ越しの損害賠償の請求は可否を弁護士に記事にしてもらいました。
4.起きてしまった「隣人のタバコ問題」の対処方法
マンション生活で喫煙の被害を受けている場合は、管理者や賃貸人(大家)に相談するのが基本的な対処方針です。どうしても解決できない場合は、過去の解決事例などを基に、交渉・調停・訴訟などの法的手段を講じるのも一つの手です。
>>『マンション内の異臭や悪臭トラブル』に関して、司法書士の西門と話した内容を判例や現実的な解決方法についてこちらのページにまとめておきました。家にいる時間が増え、圧倒的にトラブルが増えています。自分ではどうして良いか分からない場合など、参考にしてみて下さい。
4ー1.管理会社や大家に対処を依頼する
管理会社や大家と状況共有できれば、掲示板やチラシ配布を通じたマンション住民全体の注意喚起や、問題の住人に通知文を送付して受動喫煙対策を直接求めることが出来ます。分譲マンションでは、管理会社を経由するなどして組合の理事会に働きかけるのも有効策です。
【一例】管理会社・組合・大家などによる有効な対処方法
・使用規則の改定
(例)「専用使用権付き共有部分」に火気や喫煙の禁止規定を設ける
・監視カメラの設置
(例)吸い殻のポイ捨てが頻発する場所に設置
・管理人の巡回強化
(例)集団喫煙が行われやすい場所をこまめに見回りしてもらう
問題は、タバコに関する意識は未ださまざまである点です。状況を事細かに伝えても、相手方が理解して対処をとってくれるとは限りません。
また、管理組合へと対応が移っても、もともと住民同士の人間関係が希薄であることを背景にまったく機能していない場合があります。この場合は、別の対処を考えなくてはなりません。
4ー2.法的手段で解決を目指す
喫煙するマンション住民と法的解決を図ろうとする場合、被害の程度が「社会生活を営む上で我慢すべき限度」(=受忍限度)を超えているかが争点になります。
なお、被害の程度を正確に評価するには、受動喫煙症に関する医師の診断書や、マンションの構造、さらに現地の客観的な状況(臭気測定の結果や周辺住民の証言)に関する資料などを出来る限り集めなくてはなりません。
実際のところ、喫煙トラブルの法的責任がどの程度認められるかどうかはケースバイケースです。判例や通知文等で解決した事例に当てはめ、落としどころを見つける必要があります。
4-2-1.【判例】マンション住人による受動喫煙被害について慰謝料を請求したケース(名古屋地裁判決平成24年12月13日)
ベランダ喫煙が行われている部屋の真上で暮らす住人が原告となり、不法行為で精神的・肉体的苦痛を受けたとして慰謝料を請求した事件です。
この事件では、一般論として「他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら,喫煙を継続し,何らこれを防止する措置をとらない場合」には喫煙が不法行為を構成することがあり得るとされました。しかし、開口部や換気扇等から階上にタバコの煙が上がることを完全に防止することはできませんでした。
さらに、マンションの特殊性(住居が近接している)から、近隣から煙が流入することについて「ある程度受忍すべき義務がある」とも判断されています。結果、請求額150万円のうち認容されたのは5万円に留まりました。
この判例について補足すると、管理組合から注意があったにも関わらず改善していなかった点を「不法行為を構成することがあり得る」とも指摘されています。また、ベランダ喫煙をした期間や時間帯がある程度まで法的責任の有無に影響することも示唆されています。
以上の点から、問題についてしっかりと情報収集し、まず管理会社に相談するなど順を追って対応するのが大切だと分かります。
4-2-2.刑事告発することは可能なのか?警視庁刑事課の方に見解を聞きました。
4-2で解説した法的手段とは、私人間のトラブル解決を目的とした「民事」での解決方法です。
一方で、国の治安や秩序の維持に反した者に処罰(刑罰)を課する「刑事」で解決することは可能なのでしょうか?
警視庁刑事課の方に見解を聞きました。
「まず、生理機能に影響を与える場合は傷害罪になります。
隣人が、明らかに故意的に受動喫煙をさせるような行為を行っていた場合は、傷害罪になりうる可能性があります。
しかしそのハードルは高く、明らかに故意的だということを立証する必要があります。
例えば、禁煙マンションであるにもかかわらず、喫煙しており、喫煙をやめるよう被害者が再三伝えている。
また、管理会社や警察が注意しているにもかかわらず喫煙が続くようであれば、故意的であると立証ができる可能性が高まります。
しかし、刑事事件化すると管理会社や貸主などの第三者が介入できなくなるため被害者の負担が大きくなります。
さらに、故意的であることの立証という高いハードルもあるため、通常は刑事ではなく民事で貸主と借主間のやり取りになることが多いと思います。
そもそも喫煙可の物件の場合は、刑事的責任を問うことは難しいです。」
刑事事件化するには大きなハードルがありますが、故意的であるという立証ができる場合は、選択肢の一つとしてご検討ください。
5.自分で直接タバコのマナーを注意するデメリット
喫煙を巡るマンション内の隣人トラブルは、個人の自由を侵害するものとして反発されやすいのが難点です。焦って自力で対処しようとすると、問題が解決するどころか、仕返しや嫌がらせなど、ますます住みづらくなってしまう恐れがあります。
タバコのトラブルに自力で対処するデメリット・問題点としては、具体的に下記のようなものが挙げられます。
5ー1.具体的状況の特定がしづらい
マンション住民全体に注意喚起する方法以上の有効な対処をとるには、喫煙の具体的状況(住人情報・喫煙する場所・時間帯など)を特定しなければなりません。しかし、監視カメラが設置できるわけでも、住人同士が姿を確認しあえるわけでもない場所での喫煙は、ただ周囲に目を光らせるだけでは状況がまったく分かりません。
また、実際に受けている被害の程度も診断書や住居の位置関係などの資料がないと説明は困難です。
情報収集にあたっては、管理会社・組合・大家などの協力だけでは足りず、類似事例に通じている不動産会社や張り込みをしてくれる探偵等の調査会社に相談しなければならないケースが多くあります。以前、マンションの敷地に投げ込まれるタバコを調査するために、張り込みをやったことがありますが結構辛かったです。
5ー2.すぐに禁煙してくれるとは限らない
問題の住人に受動喫煙対策や後始末について注意喚起しても、すぐに改善されるわけではありません。対策や改善を約束してもらっても、しばらくすると状況が元通りになるなど、対策が功を奏しない可能性があります。
根本的な解決を図る方法は禁煙一択ですが、周知の通りタバコには依存性があり、無理強いは出来ないでしょう。
5ー3.交渉長期化や「仕返し」の可能性がある
最初に述べた通り、タバコのトラブルは「権利侵害だ」と反発されやすいのが難点です。すぐに弁護士対応に発展するケースならまだしも、注意されたことに恨みを持って嫌がらせされるなどの恐れすらあります。
穏便な解決を図るには、類似のトラブルについて当事者の権利に配慮しつつ、マンションの構造からベストな対策を提案できる業者の手を借りる他ありません。そうした業者に第三者として仲介してもらうことで、住人同士の人間関係の破たんも避けられます。
>>実際にマンションのトラブルを経験した3名の方にインタビューし、具体的な解決策を議論したページはこちらです。
6.マンション内のタバコ問題を不動産会社に相談するメリット
マンション内の喫煙トラブルは、愛煙家個人の権利を侵害して波風を立てないよう、立ち回りに注意しなければなりません。また、被害の程度を把握するため、複数の窓口に相談しながら情報収集する必要があります。
上記のポイントを押さえて対処できる機関としては、経験豊富で住まいの法律などが分かっている不動産管理会社が個人的におすすめしています。
【悪臭・異臭問題を不動産会社に相談するメリット】
- 図面確認や現地調査などを通じ、正確に実情を把握できる
- 健康被害や臭気などについて客観的に測定する方法を紹介できる
- 状況に応じ、クレーム主の情報を伏せたまま対処できる
なお、タバコをやめることの難しさを考えると、最終手段として住み替えを検討せざるを得ない場合もあります。トラブルを認識した段階から不動産管理会社の協力を得ていれば、上記のようなケースでの引っ越しサポート(禁煙マンションの紹介・なるべく好条件での物件売却など)も円滑に実施してもらえます。
他にも、自分だと加害者にバレないようにしてくれる会社が良いと思います。書面の配布や掲示、電話連絡などを上手に対応してくれる担当さんがいる会社がお勧めで、安心して頼むことが出来ると思います。
7.マンションで起きるタバコ問題の対応や相談先、まとめ
マンション生活で起きるタバコ問題は、健康被害に直結する上、吸い殻による景観悪化を理由とする物件価値低下も招いてしまいます。早々に管理会社等と協力して、下記のような対策を取らなくてはなりません。
【マンション生活で起きる「タバコ問題」の対処方法】
- 使用規則の改定
- 監視カメラの設置
- 管理人の巡回強化
- 被害が「受忍限度」を超えると主張した上での法的措置(損害賠償請求など)
タバコ問題は根本的解決が難しく、またクレームによってトラブル主からの反発を招きやすいのが本当に難点です。その為、「人間関係を壊したくない」、「どうやれば迅速かつ確実に解決できるのか分からない」といった悩みは隣人トラブル相談を専門に受け付けている不動産管理会社に打ち明けることをおすすめしています。
なお、駅前でお部屋を紹介してくれる仲介会社は入居後の管理は感知しないので、トラブルの対応は一般的にしてくれません。
今後もあなたの大切な人生と平穏が守られますよう、4,600件を超える引っ越しの失敗談を基に住まいの問題解決のトップランナーとして、地域や建物の情報を中心に提供、検証していきます。念のため、【建築士と考える】住んでもいい事故物件の見分け方、内覧時に使える方法を建築士さんにレクチャーしてもらいました。
今回もサクッと読み切れるように、私たちなりにポイントを整理して記載しました。最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
※なお、これまで聞かれることが多かった質問に関して、サイト移動を機に、もっと参考になるよう一部内容を修正・追記し、投稿しています。
住んでいるマンションの駐輪場にタバコの吸い殻が落ちていることが多く、たまに廊下まで臭いがしていることもあり、すごく不快です。
当方はタバコが苦手で、敷地内や共用部分での禁煙を謳っているマンションなので選びました。このような場合、管理組合や管理会社に連絡すれば、無くなるものでしょうか?
自分だとバレずに対処する方法を教えて下さい。
山本様、
コメント、ありがとうございます。
今日、明日中にきちんと確認し、回答いたします。
少々お待ちください。
相樂
山本様、
お世話になります。頂いた質問に関して、メンバーと話、関連する判例を調べました。
1.相談、連絡先について
今回の場合、先ずは管理組合や警察になると思います。まずは相談してみて、その結果を見た方が良いと思います。
規約違反なので区分所有者の特定が終われば、淡々と是正に向け、動くと思います。
2.バレずに対処する方法について
自分で犯人を捜したいり、注意するような事は絶対に止めた方が良いと思います。
トラブル解消には仕返しと状況の悪化を防ぐため、早期に専門家に相談することだと思います。
3.関連する判例について
・マンションの管理規約に違反した行為を続け、管理組合に訴えられたケース(事件番号:東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第437号、平成27年(ワ)第18687号、平成27年(ワ)第26584号)
マンションの管理組合が、区分所有者の規約に基づく餌やり行為を止めること、そして、駐車場契約の解除と明渡、使用料相当損害金の支払い請求しました。管理組合は駐車場に猫が来るため、猫除け機器なども購入し、対応していたようです。
猫の餌やりにはマンションの住人から苦情が来ており、注意しても止めないため、組合と区分所有者の間では信頼関係の破壊が起きていました。結果的に、当区分所有者が契約していた駐車場の解約、そして、賃料相当の損害金月22,000円と慰謝料が容認されました。
・マンションの管理規約は無いものの、ベランダでの喫煙でトラブルになったケース(事件番号:名古屋地方裁判所判決/平成23年(ワ)第7078号)
本文にも書きましたが、マンションの使用規則にベランダでの喫煙を禁じる規則はありませんでしたが、マンション内での共同生活を考慮し、ベランダでの喫煙は一部受忍すべき義務があると判断され、精神的損害に対する慰謝料として、5万円が相当となっています。
ポイントは出来る限りの措置を講じ、受忍限度を著しく超える状態で違法であるかどうかでした。
今回の場合、マンションの規約にタバコの件は記載がありそうなので、最終的には対応してもらえると思います。
参考にこのページも見てみて下さい。
>>隣人のベランダ喫煙で室内への副流煙とタバコのにおいが本当に辛いのですが何か対処法はありませんか?
>>苦情が増えたマンションの「悪臭・異臭トラブル」の判例や現実的な対処・解決方法は?
以上です。今後の参考になれば、幸いです。
ご回答、ありがとうございます。管理組合に連絡してみます。